最後についた嘘

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「スイカが食べたいなぁ」

その言葉を聞いて居ても立っても居られなくなった僕は、夜の街へと自転車をこいだ。

暗い並木道には、枯葉が舞落ちた跡がある。

吐いた息が見える度に無謀だと分かりながらも、今は兎に角、空いている店を探す事に全集中力を注ぐ。

小さな頃からおじいちゃん子だった僕は、色んな場所へ連れてってもらった。
ある時は遊園地に、ある時は山登りに、どんな場所でも嫌な顔せず満面の笑みで、セピア色の人生を彩ってくれた。
そんな思い出の数々が走馬灯の様に駆け巡る。 冷えた風を体で受けながら、必死に漕ぐ僕の頬に涙がつたっていた。

***
――ガラガラッ

「ハアっ.....おじいちゃん只今、ほら、スイカだよ」

意識はもうほとんど無く、食べる余力は無かったが匂いを嗅ぐと微笑んだ。

いつもの優しい顔だった。

***

毎年、その日が来ると、決まって僕はスイカのアイスを口にする。
その他
公開:21/05/07 09:40

能都ハルオミ( にほん )

オールジャンル書きたい。
モチベ上げてコツコツ頑張ります。

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