夜明け

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覚めきらない身体をひきずってベッドからでた。部屋の電気をつけないまま水を飲み、ベランダのガラス戸を引く。足でさぐりながら靴を履いて、庭に出た。冷たく潤んだ夜気で呼吸を整えながら、両腕を宙に差しだす。
手を叩いた。両手を一息に合わせて音を鳴らす。
手を叩いた。よく響くように両手を少しずらして打ち合わせる。
3回叩いたところで、夜が揺らいだ。距離感のない均一な闇に濃淡ができる。
4回目。地上高10メートルで電線が震えた。青闇が透き通っていく。手を打つ音の波紋が消える前に、辺りの木々で鳥の羽ばたきとさえずりが始まった。
5回目。生け垣のつつじから花粉がはじけた。流れる冷気に花の香がとけだす。住宅街に広がる細道の上を、手を打つ音が隅々まで走っていった。
6回目。東の空から光が漏れた。電線に日光が閃き、何本もの地平線が空中で交差した。
7回目。完全に日が昇ったのを確認して、部屋に戻り二度寝した。
ファンタジー
公開:21/05/08 15:17
冷気

字数を削るから、あえて残した情報から豊かに広がる世界がある気がします。
小さな話を読んでいると、日常に埋もれている何かを、ひとつ取り上げて見てる気分になります。

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