明日のはずなのに

なぜか、彼女はそこにいた。
水族館の中、大きなシャチが悠々と泳ぐ水槽の前を一人で歩いていたところ、同じく一人で歩く彼女と目が合った。
ぼくたちがここ会う約束をしていたのは、明日のはずなのに。
「裕司さん……。どうしてここに？」
「美香さんこそ……、どうして？　デートの約束は明日だよね？」
ぼくたちは、知り合って２カ月。
３回ほどデートを重ね、少しずつ心の距離が近づいているのが分かりはじめていたところだ。
ぼくは明日のデートの終わりに、彼女に交際を申しこもうと思っていた。
そのためには、しっかりとエスコートし、デートを成功させなければならない。
ぼくは明日に備えて、いわゆる"下見"に来ていたのだ。
その"下見"の最中に、彼女と出くわしてしまったのだ。
「わたし……、明日のためにここに来たの。一回来ておけば、裕司さんと緊張せずに過ごせると思って……」
どうやら、下見なんて必要なかったみたいだ。