意書

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「ご主人様が奥様に渡してほしい仰っていました」
手紙には遺言書と書かれている。
「そう」
上手くいっている、上手くいっている。頬が弛緩した事に気が付き歯を食いしばる。失敗するわけにはいかないわ。
「結婚当初は遺産狙いって非難されたわ。そんな声に酷く落ち込んでね、別れを考えたこともあるのよ。でも夫は優しく私を包み込んでくれた。もっと長く、長く一緒に居たかったわ」声が震える。
「奥様の献身的な姿には、本物の愛というものを思わせられました。手紙にはなんと書いてあるのですか?」
封を切り、半分に折られた紙を開いた。もう一度歯を食いしばる。
白紙、そこには何も書かれていなかった。呆然としていると、紙が沸騰するように動き始め隆起した部分は次第に形を成し、遺産という文字を造り出した。
「これは何?」声が震えた。
「これは、こころを表す紙なのですよ。愛って難しい。
ご主人様、そろそろ起きたら如何ですか?」
公開:21/05/07 23:05

太郎犬( 日本 )

読書量も文章力も想像力もまだまだですが、ちょっとずつ投稿していきます。
コメントいただけると嬉しいです。
 

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