蓑虫と呪いの傘

いつも同じ夢を見る。
姉が振った希望の傘の夢。

「頑張れば奇跡は起きる」

事実、普通ではありえない奇跡だって起きた。

僕が生きていること自体、その証明なのかもしれない。

とはいえ、誰が予想しただろう。
暗い部屋で何年も引きこもり、寝袋に包まる蓑虫のような僕の姿を。

海外での難病手術から生還した幼い僕は、一躍トキの人となった。匿名の高額寄付があり、当時メディアで大きく取り上げられた。姉がメッセージ入りの傘で励ますシーンは何度もテレビで流用され、奇跡の傘と騒いだ。

「頑張れ！奇跡を見せてくれ」
鼻息荒く大人は言った。それが呪いになるまで時間はかからなかった。

「頑張れ」
引きこもっても尚、言葉の雨は止まない。甘えるな、諦めるな。頑張れ。もっと頑張れ。君ならできる。頑張れ。

降りかかる呪いを避ける傘はない。

蓑虫のような寝袋の中
僕はいつも同じ夢を見る。

姉が持つ呪いの傘の夢