べとべとさん

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「あたしゃ、べとべとさんに好かれとる」
 
 陽が傾き、昼と夜の境目が曖昧になり始めた頃、老婆はそう言った。少し寂しさを感じる風が吹いていた。

「初めて見たのは12、3歳の頃さ。親戚んちに届け物をした帰りにな。ちょうど今みたいな夕暮れ時だったね」
 
ひたひたひた

「誰か後ろにいるなぁと思って立ち止まると足音も止まる。走っても足音は聞こえてくる」

ひたひたひた

「これはと思って、べとべとさん先へお越し、って言ったよ。でもな」

「道を忘れた。宮川の地蔵んとこまで行きたい」

「そう言ったんだよ。だから、いいよって案内したよ。家の近くだったからね。それからだね。足音が聞こえるようになったのは。見合いの日も、嫁入りの日も、お宮参りの日も。節目節目であの足音がするからな、来てくれたんだなって思ってたよ」

「で、今日はあたしの迎えかい?」

 私は頷き、老婆に近づいた。
 
ひたひたひた
その他
公開:21/05/06 15:32
更新:21/05/10 15:17

おおつき太郎

面白い文章が書けるように練習しています。
日々の生活の中で考えたこと、思いついたことを題材にしてあれこれ書いています。


Twitterはじめました。
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