その後、彼を見た者はいない

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激闘の末、遂に勇者は世の首魁たるラモンを打ち破った。
「これで世界に平和が戻る」
とどめを刺すべく勇者は剣を突き立てた。
「勇者よ…お前の本当の役割は私を倒す事ではない。私が死ねばまとまっていた世界は互いに矢を向け合うだろう」
ラモンは胸のペンダントを引きちぎった。
「その時は、今度はお前が悪の枢軸として一手に世界を敵に回し復活するのだ」
勇者は頭を振る。
「ふざけるな!正義を貫き悪と戦い続けるのが英雄としての私の使命だ」
「フ…その正義感につけこまれて選ばれたのだよ。彼らに」
「彼ら?」
ラモンはペンダントを勇者に投げた。
「これは…!世に伝わる勇者の証、悪を討伐した者にのみ王家から授かるはずじゃ…」
「そうだ。悪を享受した正義の証だ…さぁ、世界の為に悪の皮を被って生きるのだ」
「私がそうしたように…」そういってラモンは静かに目を閉じた。

伝説の勇者の屍を見下ろす今際の表情は見えない。
ファンタジー
公開:21/05/06 11:47
更新:21/05/14 14:07

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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