夏告人

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「夏告鳥って知っとる?」
 
 彼女は突然それまでの話をぶった切る質問を繰り出す癖があった。

「ん? 知らんなぁ。魚は聞いたことあるけど」
「でしょー? 実はね、燕なんだって」
 
 そう得意げに教えてくれるから、憎めなくて結局話に乗ってしまう。

「あぁ、暖かくなったら飛んでるもんねぇ」
「やろやろ〜!毎年燕を見るとワクワクするんよね。夏が始まる!って感じで」

 彼女は両手をグッと握って言う。

「でも、今年は何もできんね。高校最後の夏やのに……」
 祭事はきっと今年も中止だろう。慰めだか祈りだかのゲリラ花火が上がるだけ。

「うん。今年はダメかもしれん。でもその分受験勉強頑張って、未来の夏を盛り上げようよ!」

 ピッと立てた指越しに不格好なウインクが弾ける。ふざけているが、その言葉は私の心にストンと落ちてきた。


「そやね。この話来年は忘れてるかもしれんからまたしてね」
青春
公開:21/05/04 11:09
更新:21/05/04 22:55

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