豆腐殺人事件

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その殺人事件現場は凄惨だった。
場所は都内のオフィスの一室。被害者は食品スーパーのバイヤーとして辣腕をふるっていた社員だ。
強い恨みをかっていたのか、男性の後頭部は何物かの鈍器で激しく殴られており、頭蓋骨は陥没し、脳漿や大脳がリノリウムの床に飛び散っている。
迷刑事と言われる蓋原警部は、この現場を見て、こう叫んだ。
「この現場に、豆腐が散らばっておる。この男性は、豆腐に殺されたのだ」
若手の警官は驚いた。
「どこに豆腐があるのですか。どう見ても頭蓋骨の中身がはみ出ているだけではありませんか」
蓋原警部は不敵な笑みを浮かべた。
「ふふふ。君はまだ若い。現場というものは、素直な目で見るべきなのだよ」
数日後、豆腐屋の主人が逮捕された。被害者に取引停止をチラつかされながら値下げを執拗に迫られ、切羽詰まった上での犯行だったという。
脳漿の海にわずかなオカラが混じっていたのが、動かぬ証拠となった。
ミステリー・推理
公開:21/05/05 12:32

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