amラジオ

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「ジジジジ」
ラジオの雑音に混じって懐かしい声が聞こえた気がした。
「やばい」
空を鳴らす音がして間もなく雷鳴が窓を白く光らせた。バルコニーの洗濯物を片付ける時、パチンとブルーベリーの枝を折ってしまった。きっと、雨が降っても実はならない。ラジオは途切れ途切れになりながらどこかの国の音楽を鳴らせていた。 よれよれのシャツをハンガーラックに引っかけ、親指が濡れた靴下を乱暴に洗濯機に入れる。いい加減雑音が煩わしくなりラジオのスイッチを止めようとテーブルに手を伸ばす。ーーない。そうだ、あるわけがないだろう。あの時に壊してしまったのだから。混乱する頭で部屋をうろつくと、あるはずもない床下収納庫の中から雑音と彼女の声が聞こえてきた。
『梅酒良い色でしょ? ブルーベリーも漬けてみたいね』
そんな事を言っていたのに。雷鳴が全てをかき消す。投げつけたラジオも彼女の悲鳴も。もう何も聞こえない。
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公開:21/05/05 12:14
過去作『ラジオ』テーマ 2000文字→400文字 のはずが全く違う話に

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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