夢の中の喫茶店

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カランコロン。
僕は今夜も、その喫茶店の扉を押した。
「いらっしゃいませ」
年老いた主人が柔らかな声で言った。
またこの夢だ。
僕が古びた喫茶店に入り、窓の外を眺めるだけ。
そんな映像を、天井の方から客観的に見ている本当の僕。
幽体離脱のような感じといえば分かりやすいかもしれない。
「ご注文は?」
気がつくと、もう一人の僕の隣には主人が立っていた。
おかしい。
こんな展開は今までになかった。
「コーヒー。ブラックで」
もう一人の僕がそう言うと、湯気を立てたコーヒーが机の上に現れた。
相当喉が渇いていたのだろうか。
ゴクゴクと喉を鳴らして飲むと
「甘い……」
そう呟いた。
甘い?
「知っていますか?」
主人が言った。
「夢の中の飲み物はすべて逆になるんです。味も、効果も。つまり、あなたはもう二度と……」
そう言った瞬間、主人は天井に浮かぶ僕の方を見て微笑んだ。
公開:21/05/04 21:59

田坂惇一

ショートショートに魅入られて自分でも書いてみようと挑戦しています。
悪口でもちょっとした感想でも、コメントいただけると嬉しいです。

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