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五月の頭。朝に近い深夜、「少し散歩しないか?」と夫に誘われた。
何もこんな時間じゃなくても…と、眠い目を擦る。
「この時間じゃないとダメなんだ」と夫の真剣な表情に目も覚め、上着を羽織ると外に出た。
晩春の夜。肌寒いと思ったらうっすらと霜が降りている。
「八十八夜の別れ霜と言ってな、今日で遅霜も最後だ」
夫の説明に、なら猶更今日でなくてもいいのにと首を傾げ、小高い山へと足を進める。
キレイ…と思わず声に出た。
頂上付近の霜降る原野が、満月の光に照らされ青白く輝いていた。
「今日、このタイミングじゃないと見れないんだ」
幻想的な風景に時を忘れ二人見とれる。
徐々に東の空が深い青から紫へと変わっていく。夜明けが近い。
「薄明と言ってね、1日で最も美しい時間なんだ」
白んでいく空が青空を連れてくる。
「でもまあ、君の方が美しかった」
その一言で、寒さで青白んでいた私達の顔に二人して朱が差した。
公開:21/05/04 20:27
田舎暮らしの楽しみ

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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