となりの空は青い

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「―なぜ母親が歌詞に存在しないのですか!?不公平です!」
「いや、それは当時の…」
相手の言葉を遮って、再び議場に緋鯉の甲高い声が響き渡った。
「そもそも、なぜ父親がいちばん上と決まっているのですか?それ自体、女性蔑視の証拠でしょう!本来男女は平等、夫婦は対等であるべきです!」
断固とした口調に一部の議席から喝采が起きた。
結果、童謡『こいのぼり』の歌詞は書き変えられ、父親の真鯉と母親の緋鯉は同じ高さで向かい合わせにつけるのが流行るようになった。

だが新たな火種が勃発する。
まず子供の鯉を父・母どちら側につけるか、という親権争いが続出。加えて、風が吹いても片側しか泳ぐことができない。これはいかにも見栄えが悪かった。

「何よあの家!仲良し家族アピールのつもり?すぐマウント取ってくるんだから!」
よその家の昔ながらに並んで泳ぐ鯉のぼりを眺めつつ、一人垂れ下がった緋鯉は苦々しげに歯軋りした。
その他
公開:21/05/02 23:03
鯉のぼり 実は歌の2番に 母鯉が登場するもの・しないもの の2パターンがあるそうです 誰も幸せにならない権利の主張は 本末転倒ですね #117

秋田柴子

2019年11月、SSGの庭師となりました
現在は主にnoteと公募でSS~長編を書いています
留守ばかりですみません

【活動歴】
・東京新聞300文字小説 優秀賞
・『第二回日本おいしい小説大賞』最終候補(小学館)
・note×Panasonic「思い込みが変わったこと」コンテスト 企業賞
・SSマガジン『ベリショーズ』掲載
(Kindle無料配信中)

【近況】
 第31回やまなし文学賞 佳作→ 作品集として書籍化(Amazonにて販売中)
 小布施『本をつくるプロジェクト』優秀賞

【note】
 https://note.com/akishiba_note

【Twitter】
 https://twitter.com/CNecozo

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