だから言ったのに

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吹けば倒れてしまいそうな薬屋。それが我が家だ。
儲けは良くない。当然だ。近くに大きな病院があり、客はそっちに流れていく。
「もういい加減店をたためば?」
両親は決して首を縦に振らない。
「この店はな、さる御方と約束をしているんだ。その方が訪れるまでたたむわけにはいかないんだ」
またこれだ…私は店の奥に飾られた奇妙な掛け軸に目を向ける。かつて我が家を訪れたという龍の魚拓…龍拓だ。
龍は己が成長した後、必ず戻ってくると約束したらしい。それがもう数百年の前の話だと言う。
そんな眉唾物の話、私は信じていなかった。

ある嵐の日の事だ。店の扉を1枚の鱗のような物が突き破った。それはきらきらと輝き、龍拓の前に鎮座する。
慌てて両親と私は嵐の空を見上げた。巨大な龍がうねりを上げ分厚い雲の中へと戻っていく。「だから言ったのに」と誰かが呟いた。
龍のお墨付きの薬屋となった以上、たたむわけにはいかなくなった。
公開:21/05/02 20:51

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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