だから言ったのに

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夫の葬儀の日。夕暮れ時、私はその背中を見つけ駆け寄った。
背後から突然抱きつかれ、その人が酷く驚いた様子なのを背中越しに感じる。
「突然抱きつくとか、何を考えているんですか?」
その人の声に私は声を震わせて答えた。
『貴方に…貴方に会いたかったんです…』
見間違うはずもない。その背中は葬儀を執り行い、先程火葬を行った夫のものだ。
「誰そ彼とはよく言ったものだ。人違いだったらどうするんです?」
『私が見間違う筈がありません!』
私の断言に夫は諦めたように口を開く。
「だから言ったのに…僕と結婚すれば、君は不幸になる」
『私は不幸だなんて思っておりません!貴方と過ごした日々が幸せの証拠です』
「なら何故、今泣いているのですか?」
『…誰そ彼時、見間違いでしょう。私は天国に行く貴方を笑顔で見送っております』
「…なら僕も向こうで君を見守っているよ」
逢魔が時の奇跡に、私達は最後の別れを済ませた。
公開:21/05/03 19:07

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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