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目を覚ますといつも知らない部屋にいる。
壁には大きな文字。「手帳を読め」

そこに書かれている文字を追う。
それは自分の言葉であり自分の言葉ではない。そもそも自分とは何か。

記憶がリセットされる。
朝、目を覚ますたび、僕は僕であり、僕ではない。

古い記憶だけが生きている。
だが父や母や兄弟の思い出はない。手帳によると、毎朝部屋を訪れてくる女性が母親なのだという。

珍しい病気だということで取材も受けている。
僕にとってはどうでもいいことだ。何も残りはしない。

疑心暗鬼にはならないか、とある日インタビュアーは訊いた。君の母親も父親も偽物で、みんなで君を騙そうとしているのかもしれないよ。僕は問い返した(らしい)。「はしごが一つしか無いのに、他にどうやって壁を登ればいいんだい?」

手帳の終わりまで来て、僕はこの数ヶ月の記憶の断片を取り戻す。僕はそうして、ほぼ僕になる。

ところで君は君?
その他
公開:21/05/02 07:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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