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 どんな固い盾をも突き通すことができる矛を持ち、春は冬に襲い掛かった。
 冬の盾は雪。どんな矛でも突き通すことができない。ひらりひらりと身を交わす。
 春は矛先を変え、凍った大地を狙った。
 暖かな日差しに力強い新芽が大地を突き通して生まれてくる。
 冬の盾が破れても矛盾はない。
 どんな矛でも突き通すことができないのは季節限定、冬だけの話だから。
 時は移る。
 春は盾を構えた。
 梅、菜の花、桜、チューリップ。花水木、薔薇、躑躅。
 咲き誇り、散る。その繰り返しの中で少しずつ最強の盾は力を失っていく。
 夏は卑怯にもその隙を待っていた。
 雨を降らし、雷を鳴らす。
 激しい攻撃に春はただ、去っていった。
 その姿に夏は未来の自分を見た。
 やがて、秋が台風と共にやってくるだろう。
ファンタジー
公開:21/05/01 13:44
パピプペポ川柳

田辺 ふみ

名作絵画ショートショートコンテストで「復元師」が太田忠司賞を受賞しました。
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「ショートショートの花束」8と9にものっていますので、よろしく。
 

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