百年のバナーヌ

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貸しバナナあります。
まだ若い祖母がそんなのぼりを背にオフィス街を歩く姿。
その頃の日本は新種のウイルスが猛威をふるい、バナナを借りる人がめっきりと減って、生活に困ったと祖母から聞いたことがある。
祖母がその街で会社員だったとき、よくおやつに買ったバナナを食べ忘れては持ち帰り、次の出勤時にバッグの中でつぶれたバナナに気づいて涙したという。
人はバッグのバナナを食べ忘れてしまう。つぶれたバナナのにおいは強烈で、仕事相手や同僚からは「シャンプー変えた?」などと言われ、祖母は泣いてばかりいたらしい。帰り道にバナナを返却できる店があればいいのに。祖母は会社を辞めてその夢を叶えた。
やがてバナナはファッションアイテムとしてのブームがきて、祖母の商売は大当たりした。
私は漬物石として使われていた祖母のパソコンを起動して、百年前の日本をぼんやりと見ながら、祖母の写真に話しかける。
いまバナナは楽器だよ。
公開:21/04/30 12:23

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