お前へ

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ノムさんは言った。かすかに言った。
「うて、いまだ。...」
その輩は、見るからに、太い腕をしている。
緊張しているのだろうか、顔面は、好調とはいかないまでも、ほのかに紅潮している。

対峙する、汚れなき真白なユニフォームを纏った漢(おとこ)は、サウスポー。
天に向かって、高々と左手をもちあげた。

プスゥー。

鋭利にとがった針が、二の腕にささった。
透き通ったワクチンが、輩の体内に注入されていく。
まさに、狙いうち。
これで終わりになるのか、これが始まりになるのか、誰もわからない。
でも、これで収束する頃な、そんな思いで、みな、いっぱい、いっぱいだ。

ノムさんは、言った。
「打て、今だ...、お前が打たなきゃ、誰が打つ...」、
   
喜怒哀楽がないアンジャッシュのようなドラマの始まりであった。
   
その他
公開:21/04/28 09:41

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