硫黄の石

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父と風呂に入るとき、父が「硫黄の石」を持ってくるのが楽しみだった。その石があると、自宅の浴槽が温泉のような香りに包まれるのだ。
この石は表面に細かい穴が開いている。父がその石を風呂に沈めると、ポコポコと泡が湧き出てきて、ほのかに硫黄の匂いが漂ってくる。
子供のころ、私は風呂に入るたびに、何度も父に硫黄の石をせがんだ。父はニヤニヤしながら、「今日は石の調子が悪いんだ」とか「今日はいけそうだなあ」とか言いながら、硫黄の石を持ち込んでくれた。私は、父が泡を出すために必死になる姿を、不思議そうに眺め続けていた。
大人になり、硫黄の石の正体は、たんなる軽石であり、泡の正体は父のおならであることに気がついた。
それでも、私は父の硫黄の石が大好きだった。
父の硫黄の石は、いまは私の息子とともに、風呂の片隅に置かれている。
青春
公開:21/04/28 09:33

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