落ちて慕情

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「あの、肩に虫が」
私は「えっ」とお弁当を落としそうになる。黄緑色のジャケットのせいで、同色の虫に気付かなかった。彼は「失礼」と遠慮がちに取ってくれた。
「桜の木の下からぶら下がる虫に注意ですよ」
あちこちの葉から伸びた糸の下で虫がふわりふわりと浮いている。
「日当たりの良いベンチなのに、誰も座ってないからどうしてかなと思ったんですよね。お弁当、どうしよう」
「もう少し先に、屋根のある休憩スペースがありますよ。僕もそこで昼食をと思って」
桜並木を抜けた辺りに公園があるらしい。
「また虫が。よっぽどあなたの肩が居心地が良いんだ」
「もう、しばらく着ません」
「勿体ないですよ、似合ってるのに」
「ーーお世辞でも嬉しいです」
「思ったこと言っただけですよ」
二人はテーブルを挟んで向き合った。
「自己紹介、します?」
「お見合いみたいだね」
笑う彼にぽつりと落ちてしまう予感がした。
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公開:21/04/28 00:10
桜の木 虫注意 かさ さんの作品より 思い付きました

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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