喫縁(きつえん)

0
5

 爺ちゃんの三回忌に爺ちゃん家に来た。和室に行くと、父さんや叔父さん達の煙草の煙で部屋はいっぱいになっていた。僕はその白い煙の中に死んだはずの爺ちゃんを見つけた。

「お父さんは喫縁(きつえん)中なの。煙は縁となって形になるのよ」
母さんが言った。

 爺ちゃんの体は輪郭がユラユラ揺れて頼りない。父さん達が煙を出すと、爺ちゃんの体が色濃くなった。

「おう。こっちこい」
 突然、爺ちゃんが呼んだ。
「喉渇いたろ?」
 そう言って爺ちゃんが差し出したコップの水を口に含んだ。すると、変な匂いが鼻を通り、舌に焼けるような痛みが走った。
「ゲホ! これ、おさけだよ!」
「がはは!」
 思いだした。爺ちゃんはこんなしょうもない悪戯が好きな人だった。

 でも、そんな爺ちゃんが口を広げて笑う姿を、大人たちは嬉しそうに見つめて煙を吐いている。

 そのとき、僕は初めて早く大人になりたいと思った。
その他
公開:21/04/29 14:35
更新:21/04/29 21:39
ボツ

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容