ノスタルジー遊園地

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その遊園地を訪れたときは本当に驚いた。広大な敷地に遊園地の姿形がなかったから。
「当遊園地にご入場できるのは、四十歳以上の方で、お一人様ずつです。あなただけの遊園地でノスタルジーに浸れますので、楽しんでいってください」
入場口で遊園地の係員がアナウンスしていたので尋ねてみた。
「空き地があるだけで遊園地は見当たりませんが、どういうことですか」
「この入場口で当遊園地のチケットをご購入いただき、ゲートを抜ければ、あなただけの遊園地が現れます」
疑わしく感じながらも、係員の指示に従ってチケットを買い、ゲートを抜けてみた。
次の瞬間、懐かしい雰囲気とともに、子供の頃に訪れた故郷の遊園地が昭和の風景のまま現れた。この場所にあるはずがないし、もうすでに閉園になっている。
すると目の前に昔見かけたことのある親子が楽しそうに歩いている。記憶を呼び起こし、はっと気づいた。
それはあの頃の俺自身だったのだ。
ファンタジー
公開:21/04/29 07:05
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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