空気を食べる

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「物言わぬは腹ふくるる…」とはいうけれど、黙ってたっていっこうにお腹は膨れないので、空気を食べることにした。
家の空気はぬるり生温く、つるんといくらでも喉を通るけど、調子に乗ると、ときどき焦げ目が喉を刺す。
ああひもじい。
授業中、我慢できずにちょろり舌出し味見する。人工甘味料とソーダのプチプチ。心地よさとチリリ痛み。ちゅるちゅると音を立てたら、前の席の佐藤さんが振り向き、私は慌てて教科書に隠れる。
ああひもじい。
街中の雑多な空気は大抵不味いけど、たまにとびきり美味しいのがあって、食べるのをやめられない。不味いのはいつまでも口に滞る。吐き出して吐き出して、沈んでいく空気が、あちこち足跡のように残る。
ああひもじい。
やはり河原のがいちばんいい。すっとして、透明で、夏草と水鳥の味。齧るとカリカリ音がする。
ああ美味しい。
夢中で貪っていると、お腹はみるみる膨れ上がり、水面に映る一体の餓鬼。
ホラー
公開:21/04/28 23:01

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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