ラブコール

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図書館で、開かれた跡のない白い装丁の本を見つけた。箔押しのタイトル文字。作者は初めて見る名前。奥付けを見ると五年前の出版だ。
何気なく開くと、栞紐の跡が頁の両側にくっきりついていて、それはちょうど逆さまのハートの形をしていた。
借りて読む。
これは自分のための本だ。
そう思い、返しては借り借りては返しを繰り返し、ずっと手元に置いていた。

ある日、どうしても読みたい本を借りるために返すと、自分でもなんであんなに執着していたのだろうと不思議になり、そのままになった。いつでも借りれる、そう思っていた。

いつのまにか本棚で見かけなくなり、検索結果にもでなくなって、司書に聞くと除籍になったと言う。

数年後、図書館の除籍本の譲渡会に参加した。
そこかしこに置かれた段ボール箱。少しだけ期待して探す。
あった。
少し褪せた表紙。埃じみた手触り。

栞紐の頁を開くと両側に、くっきりと、一粒ずつ涙の形。
ファンタジー
公開:21/04/26 18:05

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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