もう一人の君へ

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 「おはよう」
 私が声をかけても、彼は答えてくれない。動きもしない。
 「今日はクマがひどいね……ニキビも増えた?」
 彼は答えてくれないが、ぺたぺたと顔に触れて確かめている。
 私は何となくため息をつき、蛇口を捻る。透明なのによく見える水が、シンクに落ちた抜け毛を絡み取りながら、排水溝に流れ込む。
 水を手で受け止めて、顔を洗う。冷たくていい気持ち。
 排水溝を見つめたまま、右手で藻掻くようにしてタオルを探す。
 顔面の水を拭き取ると、再び彼と目が合う。
 「はぁ……お前はいいよね」
 タオル掛けにタオルを戻す。不細工な見た目にならないように気を付けて。
 床に水滴が落ちているのに気が付いた。スリッパで踏みつけてしまおうかと思ったが、思いとどまって、ティッシュペーパーで拭き取る。
 「いつになったら、変わってくれるんだよ」
 私は汚いティッシュペーパーをゴミ箱に捨てる。
その他
公開:21/04/25 20:38

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