老い鷹と傘持ち

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夕刊で難病の少年がアメリカで手術を成功させ、無事帰国と報じている。匿名で多額の寄付があったらしい。

「おいおい、やられたよ。テツ」
コンビニの入り口で老人が傘を盗まれたらしい。黒服が老人が濡れぬように急いで別の傘を広げた。



かつて男は無敵だった。
「隠し爪の鷹」と聞けば業界の人間は震えたものだ。現役を退いても、腹心の傘持ちが「血雨傘」の異名で呼ばれる頃には、鷹に楯突く人間はいなくなっていた。てっぺんまで飛んだ景色を死んだ母親に見せられなかったのが唯一心残りだ。

手術を受けるつもりはなかった。

病院の最上階から少女の姿を見るまでは…。

中庭で字が書かれた傘を振る少女。

下の病室にいる弟に向けたメッセージだと後に知るが、鷹は気づくと少女の前に立っていた。

「嬢ちゃん、おいちゃんにその傘、譲ってくんねぇかな?」

ー鷹司、がんばれ!
在りし日の母の声が聞こえた気がした。
その他
公開:21/04/27 17:27
傘にまつわるあれこれ②

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

新シリーズ「人喰い病院」はじまりました。

荷物
破顔
秘密
長老
抗争
皇帝
報道

マイペースに描いていきたいです!

SSG1周年!

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