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硫黄じみた現像液の匂いに、アンバー光が灯る暗室で咽せそうになる。
液の中で印画紙に画が徐々に浮かび、重なるように記憶が滲んだ。
戦地に善人は少ない。無理もない。そこでは善人ほど早く命を落とす。
だからその男が生きているのが不思議でならなかった。見知らぬ敵国の地でカメラを持つ彼の笑顔は救いだった。
「こんなことでもないと国を出ないだろう?妻に見せたくて」
そう言って彼はシャッターを押した。
「俺が死んだら妻にコイツを渡してくれ」
その言葉を最後に数日後、彼は死んだ。
「…これ一枚だけか。」
フィルムは黒く過感光していた。気まぐれに私が撮った彼の笑顔の一枚を除いて。
現在、私は孫も生まれ平穏を生きている。いつの日か彼の写真を遺族に手渡せる日もくるかもしれない。
「好奇心」と顔に書いたようにカメラを覗く孫に私はいう。
「ファインダーは万華鏡だよ。覗く度に世界は違って見える。」
液の中で印画紙に画が徐々に浮かび、重なるように記憶が滲んだ。
戦地に善人は少ない。無理もない。そこでは善人ほど早く命を落とす。
だからその男が生きているのが不思議でならなかった。見知らぬ敵国の地でカメラを持つ彼の笑顔は救いだった。
「こんなことでもないと国を出ないだろう?妻に見せたくて」
そう言って彼はシャッターを押した。
「俺が死んだら妻にコイツを渡してくれ」
その言葉を最後に数日後、彼は死んだ。
「…これ一枚だけか。」
フィルムは黒く過感光していた。気まぐれに私が撮った彼の笑顔の一枚を除いて。
現在、私は孫も生まれ平穏を生きている。いつの日か彼の写真を遺族に手渡せる日もくるかもしれない。
「好奇心」と顔に書いたようにカメラを覗く孫に私はいう。
「ファインダーは万華鏡だよ。覗く度に世界は違って見える。」
その他
公開:21/04/23 19:08
更新:21/04/23 21:29
更新:21/04/23 21:29
壊れたカメラシリーズ⑤
暗室には
印画紙に感光しない
作業用のアンバー灯が
点いています。
空津 歩です。
ずいぶんお留守にしてました。
ひさびさに描いていきたいです!
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