恋の炊いたん

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彼が寝室の窓を開けると4月の風がモンステラの葉を揺らした。
ゆうべの雨は嘘でした。そう清々しく謝るような空は快晴で、私は彼と過ごした夜をかみしめる。
まだ暗いうちに朝の仕事を済ませた私は、彼にとっておきの朝ごはんを作った。スウェーデンうまれの彼。お口に合えばいいなと願う。
ここは私がうまれた家。豆腐屋をしている。両親はすでになく、一度は閉めた店だけど、多忙で体調を崩した私は、勤めていた会社を辞めて、自宅療養をしながら豆腐を作るようになった。
彼はゆうべのお客さん。木綿一丁。がんもがひとつ。
突然の雨が降って、雨やどりの彼。激しい雨がおからの屋根を崩すのを見て、モッタイナイと彼は言い、私たちは流れるおからを集めて、そのおからで法隆寺やIKEAを建てた。恋をした。夢中で。
窓からの風に彼の笑顔が崩れはじめる。私を抱いた腕も、唇も、ベッドから鍋に移した。そして私は恋を炊く。だいずな彼を甘く炊く。
公開:21/04/23 14:26

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