蓄恩機

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「…蓄音機ですか?」
フラリと入った店は落ち着いた雰囲気だった。
マスターは珈琲を置きながら
「これサービス。実は道楽でココは喫茶店じゃないんですよ」
珈琲のいい香りが理解を阻害した。
「似てるけど蓄恩機なんです。恩返しの『おん』の方ね」
年季の入った木箱の上にラッパ型のスピーカー。
蓄音機のソレだったがターンテーブルは無い。
「こうすると今まで受けた恩を還せるんです」
そういってマスターは木箱の上に掌を載せた。
すると音楽が鳴り出す。心地よい旋律で全身がリラックスするのを感じた。
「貴方の心の迷いを払拭できたなら幸いです」
確かに抱えている不安が溶け出していく様な気がした。
「私もできますか?」
「もちろんです」マスターは微笑む。
「日々の恩を忘れない事。そしていつか悩める誰かを導いてあげてください。いつでもここに居ますので」
私が奏でる旋律を想いながら珈琲に口をつけた。
ファンタジー
公開:21/04/21 09:47
更新:21/08/21 23:23

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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