思春木

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依頼のあった桜の木にそっと触れた。もう庭に植えて十年経つというのに、花が咲かないという。毎日手塩にかけているにも関わらずだ。枝も曲がってきたそうだ。私は桜の木に話しかけた。

「何か不満でもあるのか?」
【うるせえな】

ああ。今、思春木か。思春期の木と書いて思春木。

「花咲かせないのか?大切にしてもらってるのに」
【そっちが勝手に植えたんだろうが】

かなりこじらせてるようだ。しかし私も庭師としてのプライドがある。緑鮮やかなメジロをそっと枝にとまらせた。

「可愛いだろ」
【可愛くねえよ】

しかし彼の蕾は少しずつ開き始めた。

チーヨ、チーヨ。

メジロは空に向かって美声を響かせた。その声に呼ばれるように、思春木はその枝葉を照れた頬のようなピンク色に染めた。

「綺麗な花じゃねえか」
【うるせえ】

初恋は実らないなんて野暮な事は心に秘め、彼の初桜をじっくりと目に焼き付けた。
青春
公開:21/04/20 20:39
更新:21/04/20 23:36
言の葉だこっと 語りの小部屋 町田政則

たらはかに( 日本 )

たらはかに

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猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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