あの夏の怪物

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遠くでサイレンが聞こえる。

吹奏楽部の「ルパン三世」と応援団のエールが空に溶けた。

静寂。

打者の心音がマウンドまで聞こえるほどの。

スパイクで土を踏む。ロージンが手に馴染む。指に力を込める。振りかぶり、指先からボールが離れる。

静寂。

ーースパアァァン!

雷に似た快音をミットが鳴らす。遅れて打者が崩れ落ちた。後1人。

9回裏 6対0、2アウト、1、2塁。
誰もが我が高の勝利を信じて疑わなかった。

ーーカキーン

静寂切り裂く白球が自分を飛び越えてなお、理解が追いつかない。

満塁だが、次を抑えれば終わり。
落ち着け、俺。

夏の日差しが目に染みる。

静寂。

またあの夢…。

路上に敷いた段ボールの上で目を覚ます。けたたましい音で頭上を急行列車が走る。布団代わりの10年前の新聞にはこうある。

「怪物投手墜つ!7-6の奇跡的大逆転劇!」

遠くでサイレンが聞こえる。
青春
公開:21/07/31 15:18
更新:21/08/02 08:50
あの夏の記憶① 僕はタッチ派

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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