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夜になると歯が閉じるように見えることから、ねむの木と言う。扇状のピンクの花は、とまで書いて誤字に気づく。「歯が閉じる」ってどんな状態よと、「歯」を「葉」に打ち直す。酔狂で過去の記憶を文字に起こそうと思い立ったのは、宿泊先の窓からピンクの花が雨に打たれるのが見えたからだ。そろそろ葉が閉じる頃だ。
子供の頃に祖母と一緒にねむの木の葉が閉じるのを見た記憶がある。でも、その日の私は朝から熱を出してずっと寝ていたと母は言う。納得出来ない私に、祖母が熱の下がった私を連れ出したとこっそり教えてくれた。
それは祖母と私の二人だけの秘密。母は熱に浮かされた私の夢だと思っている。
どちらでも良かった。葉が一斉に閉じていく静かな音は夢の様であったから。風に落ちたピンクの花が足元に散らばり、頬に伝うピンクの雫は少し妖しげで、そこに楚々と立つ祖母の姿も美しかった。
あれは人の世ではなかったかもしれない。
子供の頃に祖母と一緒にねむの木の葉が閉じるのを見た記憶がある。でも、その日の私は朝から熱を出してずっと寝ていたと母は言う。納得出来ない私に、祖母が熱の下がった私を連れ出したとこっそり教えてくれた。
それは祖母と私の二人だけの秘密。母は熱に浮かされた私の夢だと思っている。
どちらでも良かった。葉が一斉に閉じていく静かな音は夢の様であったから。風に落ちたピンクの花が足元に散らばり、頬に伝うピンクの雫は少し妖しげで、そこに楚々と立つ祖母の姿も美しかった。
あれは人の世ではなかったかもしれない。
その他
公開:21/07/29 12:17
射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。
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