閑話休題15

「お前ってからっぽだよね」
大学時代、ボロアパートの一室で同級の友が私に言った。売り言葉に買い言葉、芸術学科なんてとこに在籍していたのが運の尽き、安酒を片手に聞き齧りのニーチェやフロイトなんかを引用した身のない言葉で夜な夜な「生きる意味」「アイデンティティとはなにか？」なんて討論していたら冷や水の代わりに浴びせられた捨て台詞。本来なら激昂し「何だと！この△□☆…」と返す刃で汚い言葉を吐き、否定し、実家の家族から先祖代々までこき下ろし険悪な朝を迎えたろうが、その時の私は違った。

「上手いこと言うなぁ」
妙に納得してしまった。不確かだったものに名前がついた感動さえあった。そうか私には何もないのか。からっぽなのかと。それを聞いた別の友人が愉快がって私にくれたのが空津 歩(カラツアユム)と言う名だ。

僕はなかなか気に入っている。

空を歩くなんて、スカイウォーカーみたいでかっこいいじゃないか。