鹿手袋の夜

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ゆきずりの哺乳類と柔道をした夜は決まって水ダコに覆われる。埼玉県さいたま市南区鹿手袋。私はこの町に暮らす六地蔵の右からニ番目。サッカーでいえばボランチ。地蔵になる前は河童だった。
ざらざらざらプチ。ざらざらざらプチ。
熱帯夜のアスファルトを舐めるように身を引きずる水ダコの足音にためらうような吸盤のプチ。水ダコは私を覆うことに迷いを感じている。だから一部の吸盤が私を追わぬよう壁や電柱にくっついては妨害をしている。それがプチ音だ。
私は袋小路に立つ。六体揃えば怖いものはないけれど今はひとり。正直ぶるってる。水ダコの手だか足だかわからない足だか手が私の体をざらざらと覆う。私にも迷いはある。地蔵である私がゆきずりの哺乳類と柔道をする。そんなことが許されるのか。柔道は元々食べる相手を投げて肉の繊維を壊すことで身を柔らかくするお祭りのような調理法。私は今日も哺乳類を投げた。だから私は水ダコに覆われる。
公開:21/07/27 10:16

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