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今は誰も住んでいない実家の離れに古いかまどがあった。煉瓦にタイルを貼り付けた二連式のものである。亡くなった祖母がよく薪をくべて赤飯やあられをこしらえてくれたっけ。捨てるに忍びなく、自宅に持ち帰るため洗っていると突然、中から声がした。

「ああ、たまらんのう。ほら、角にこびりついた煤も取ってくれんか、ぬるま湯で頼むぞ」
「だ、誰ですか」
「わしはかまどの神じゃ。お主のおかげで50年ぶりに湯浴みができたわい」
姿形は見えないが、しゃがれ声が弾んでいる。
「お礼に何か叶えてやろう」と神。「死んだばあちゃんのこと、ご存知ですか」
「ひょっとしてお主はフミさんの孫、薪入れを熱心に手伝っていたあの坊やか」
かまどの神は少し上擦った声で続けた。「大事なものを預かっている」

そのまま言われたとおり、離れの脇の土を掘る。すると箱の中から純金の延べ板10枚と幼い私を抱きかかえて微笑む祖母の写真が見つかった。
ファンタジー
公開:21/07/27 04:08
更新:21/07/27 04:12
おばあちゃん かまど 思い出

アカサカ・タカシ( Chicago )

2022年から米国シカゴ在住。

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