この夏、最後のスターマイン

18
8

提灯の明かり、りんご飴で赤くなった口元をそっと拭う。祭囃子と下駄の音。境内は人で溢れている。

私は人を探していた。父だ。

違う。あの人じゃない。違う。営業職特有の早足、彼じゃない。違う。大学生、違う。巻尺を首から垂らしたスーツの男、違う。あれは堅気じゃない。喫煙所の男も違う。喫煙者ではない。マンガを読む男、違う。

父に会う為に母は私とこの街に来た。写真でしか見たことのない父に私はどうしても会ってみたかった。

花火もクライマックス直近。帰りの時間まであとわずかしかない。

スターマインが夜空に弾けた。光に照らされた横顔が目に飛び込む。

すぐにわかった。幼さの残るその青年が若かりし頃の父であると。

白いワンピースの母が私の肩を叩く。

「清子、もう時間よ。元の時代に帰りましょう」

坊ちゃんは文庫本を読んでくれただろうか。
帰りのタイムマシーンの中でふとそんなことが気になった。
ミステリー・推理
公開:21/07/27 00:08
更新:21/07/27 00:20
夏休みシリーズ最終回 ミステリーとは名ばかり笑

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

新シリーズ「人喰い病院」はじまりました。

荷物
破顔
秘密
長老
抗争
皇帝
報道

マイペースに描いていきたいです!

SSG1周年!

Twitterアカウント(告知&問い合わせ)
https://twitter.com/Karatsu_a

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容