ヒグラシが鳴いた日

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「隣のクラスのカナってやつ、妖怪らしいぜ」
 カナ…?ぱっと顔が浮かばない。
「ほらアイツだ」
 指差された子は、小柄でショートカット、無表情でせかせかと歩いていた。
「おーい、妖怪女」
 聞こえているのだろうが、こちらに一瞥もくれず通り過ぎていった。
「何で妖怪なの」
「詳しくは分かんね」
「ふ〜ん」

 暑さが一段落したある日の夕方、偶然カナを見かけた。せかせかではなく、浮いているかのようにフワフワと歩き、神社に入っていく。思わず後を追うと、本殿裏に行く姿がチラリと見えた。

 何をしているんだろう?と思ったその時

カナカナカナカナ

 鳴き声が響いた。次の瞬間、薄暗かった辺りは闇に包まれた。夜の帳が一気に下りた、そんな感覚だ。僕は隠れたまま動けなかった。立ち去る彼女は社殿に向かって微笑んだ。外灯に照らされた笑顔を僕は忘れない。

 日暮カナ、あの日以来僕は彼女から目が離せずにいる。
青春
公開:21/07/28 06:43

おおつき太郎

面白い文章が書けるように練習しています。
日々の生活の中で考えたこと、思いついたことを題材にしてあれこれ書いています。


Twitterはじめました。
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