ガラスの小瓶

6
4

ネットでガラスの小瓶を購入した。もちろんただの小瓶ではない。説明書にはこう書いてある。
名前を呼ばれて、返事をしたり反応したりすると中に吸い込まれる。
中から出るためには、同じ人にもう1度名前を呼んでもらわなくてはならない。
実にいかがわしい代物だ。だが、ネットの評価は星5つだった。信用できる。
蓋を開けてみた。何の変哲もないガラスの小瓶だ。
さてどうしたものか。試そうにも僕は一人暮らしだ。とりあえず瓶をそのままにして、スマホを手に取った。

「困ったな」
ガラスをコンコンと叩く。頑丈で割れそうにない。
今日は「月の音色」の配信日だった。ラジオで大原さんに名前を呼ばれた嬉しさのあまり、つい「よっしゃ!」と声を上げてしまった。
今僕は、ガラスの小瓶の中にいる。
「ペンネームでも吸い込まれちゃうなんて」
確かここから出るためには。
手元に目をやる。
そこには、一緒に吸い込まれたスマホがあった。
その他
公開:21/07/27 19:08
月の音色 月の文学館 新人賞 いただきました

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容