涙壺
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デートの約束がキャンセルになり、しょんぼり帰る道すがら、降り続く雨の中に、ぽつんと開いた露店を見付けた。
『涙壺』と書かれたガラス瓶が目に止まる。その昔、旅立った恋人を想いながら、流す涙を溜めたという伝説の壺。真夜中の藍色をした雫形の小瓶は、触るとしみる様に冷たくて、まるで今の私の気持ちそのままだった。
お互い忙しく、普段は会えない彼。デートに備えてピカピカに洗った車も、ずぶ濡れで台無しになっただろう。
せめて今日だけ、この涙も溜めておければ良いのに。涙壺を手に、一度は諦めた川岸に立つ。
恐る恐る瓶の口を近付けると、大雨であふれ返った川はどんどん吸いこまれ、空じゅうの雨も巻き込んで、しまいにはすっかり干上がってしまった。
真昼の空色に輝く星の川を握りしめ、真っ暗闇の川底を急いで渡る。
今年こそ、彼に会える。
もうじき明ける七日の空を息せき切って走りながら、涙雨の名残りが私の頬を伝った。
『涙壺』と書かれたガラス瓶が目に止まる。その昔、旅立った恋人を想いながら、流す涙を溜めたという伝説の壺。真夜中の藍色をした雫形の小瓶は、触るとしみる様に冷たくて、まるで今の私の気持ちそのままだった。
お互い忙しく、普段は会えない彼。デートに備えてピカピカに洗った車も、ずぶ濡れで台無しになっただろう。
せめて今日だけ、この涙も溜めておければ良いのに。涙壺を手に、一度は諦めた川岸に立つ。
恐る恐る瓶の口を近付けると、大雨であふれ返った川はどんどん吸いこまれ、空じゅうの雨も巻き込んで、しまいにはすっかり干上がってしまった。
真昼の空色に輝く星の川を握りしめ、真っ暗闇の川底を急いで渡る。
今年こそ、彼に会える。
もうじき明ける七日の空を息せき切って走りながら、涙雨の名残りが私の頬を伝った。
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公開:21/07/26 16:27
月の音色
月の文学館
テーマ:ガラスの小瓶
七夕・催涙雨・洗車雨
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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