水琴窟(すいきんくつ)の耳飾り

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年齢と共に耳の悪くなった私の為に、孫が新しい補聴器を贈ってくれました。
それは透明なガラスで作られた小瓶で、耳飾りにも使える可愛らしい品です。中に少量の水を入れて耳につけると、その水が呼び水となって周囲の音を吸収し、大きく反響させて、鼓膜の奥に届けてくれるのだそうです。
「おばあちゃんの好きな、水琴窟(すいきんくつ)という楽器みたいでしょう?」
もう何十年も昔、家族で旅行へ行き、一緒に聴いた思い出の音。施設暮らしの身に、次の機会はないかも知れませんが、彼女が今も覚えていてくれる事が、何より嬉しくありがたいのです。
「いつかまた、みんなで聴きに行こうね」
「ええ。行きましょう」
孫の声に笑って返しながら、本当はもっと聴きたい音がある事は、彼女には内緒です。
お揃いの補聴器をつけた彼女が、遠く離れた家から届けてくれる、その声に優る音色など、この世にあるはずがないのです。
その他
公開:21/07/26 16:26
月の音色 月の文学館 テーマ:ガラスの小瓶 採用・朗読いただきました♪

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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