無駄の結晶

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N氏の葬儀は寂しいものだった。
数人程の参列者はほぼ実弟の家族のみであった。
後日、弟は僅かな遺品の中に1本の8ミリテープを見つける。
再生すると在りし日のN氏が映し出された。
「私は無駄を研究し50年です。当然その50年は無駄なのです」
背景を見ると兄の自宅で録画したようだ。
「万事、意味や正当性で埋め尽くす事を有意義とした生き方を良しとする世界において
私は1秒でも多くの無駄で埋め尽くす事に人生を捧げました。言わば私は無駄の結晶です」
老いた兄の声に懐かしさは無かった。
「私の夢は報われる事無くこの無駄を成し遂げること。…しかしある疑問に悩まされた。そして一つの結論に至りこのテープを残す。弟よ。不思議と今、不幸では無いと感じる」
そこで録画は切れた。
弟は天を仰ぐ。
幸福を研究する彼にとってはものすごく有意義な資料だ。
「これまでの無駄を無駄にして価値の在るものにしてしまったね。兄貴」
その他
公開:21/07/23 10:50

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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