東京オリンピック

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東北地方の田舎で生まれ育った俺が高校卒業後、集団就職で上野駅に降り立ったのが一九六四年。一度目の東京オリンピックがあった年だ。
建設ラッシュに沸く東京では「高度経済成長」やら「国民所得倍増」やら景気の良い言葉が飛び交っていたが、俺のような若者は貧乏暇なし、生きていくために精一杯だった。
東京の街は、交通渋滞が日常茶飯事、川は汚れ公害も酷かった。俺は、ビル建設の工事現場で働いていたが、慣れない作業と過労で倒れてしまい、その後は職を転々とした。
一念発起して車の運転免許を取得し、タクシーの運転手になってから、やっと生活が安定した。結婚して子供ができ、裕福ではなかったが幸せな人生を歩んできた。その間、東京の道路を隅々までタクシーで走り抜けた。
そして二〇二一年夏。二度目の東京オリンピックが行われる。俺は、車の運転免許を返納し、競技会場を案内するボランティアガイドとして東京を今も見守り続けている。
青春
公開:21/07/23 07:02
集団就職 上野駅 一九六四年 東京オリンピック 建設ラッシュ 高度経済成長 国民所得倍増 交通渋滞 公害 二〇二一年

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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