ポホミーの連絡員

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遭難信号はすでに送った。不時着する直前にステルス機を爆破して私は水面に浮かぶコックピットの中でひとり天窓に止まった青い蜻蛉が交尾するのをぼんやりと見ながらこの星に潜む連絡員の到着を待った。
ぴちゃり。ぴちゃり。
破損したコックピットの側面から手を伸ばすと霧に覆われた視界の先で水に触れる。乾きはじめた指先の血が生温かいポホミーの水に溶けて、触れた傷口から私の体液がこの星に侵されてしまう、取り込まれてしまう、そんな恐れを感じた。舐めてみても塩味はない。ここは湖だろうか。天窓の青い蜻蛉は交尾をすませるとアメリカンチェリーのような赤い艶と光沢を得て翔び立つ空に膨満破裂、鱗粉のように消えた。
ぴろぴろりーん。ぴろぴろりーん。
私の故郷で宅配トラックが道を曲がるときに発する音とよく似た音が空に聴こえて、それを合図に辺りを覆っていた霧がみるみると晴れ渡り、水面を白髪の老女がこちらに泳いでくるのが見えた。
公開:21/07/24 14:43
更新:21/07/24 14:55

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