羊蜘蛛

長閑な田舎の町は恐怖に包まれていた。
羊蜘蛛の目撃が報告されたのだ。

羊蜘蛛は羊そっくりの怪物だ。
群に紛れ込むと本物の羊と見分けがつかない。
体の毛を蜘蛛の糸のように張り巡らせて、罠にかかった獲物をいたぶりながら補食する。
狡猾で残虐な性格で、縄張りを決めるとその領域内の生き物がいなくなるまで喰い尽くすという。

羊蜘蛛目撃が報された日の夜、羊飼いのヤコブは猟銃と斧を携え、自分の羊たちに紛れて過ごすことにした。
深夜を過ぎた頃、牧羊犬の吠える声が闇の中に響いた。

鳴き声の方へ駆け寄ると、群から少し離れたところに犬と二匹の羊が対峙していた。
ヤコブは躊躇いなく一匹の羊を銃で撃ち、その首に斧を振り下ろした。
ヤコブは自分の羊たちの顔を全て覚えていて、どちらが怪物かすぐに分かったので。

翌朝、ヤコブと牧羊犬、二匹の羊の亡骸が発見された。
目撃された羊蜘蛛は雌雄のつがいだった。