波小僧

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これから漁に出るのかい。妖怪、波小僧のことは知っているだろ。
昔、俺たちのご先祖に捕えられた波小僧が、海へ逃してくれた恩返しとして、天気の変わり目を太鼓の音で知らせるようになった。それで、地元では、突然鳴りだし、すっと鳴りやむ遠州灘の海鳴りを「波小僧」と呼ぶんだ。その音は「雷三里、波七里」といわれ、海岸付近だけでなく、一〇キロも二〇キロも陸地の奥まで響く。
音が聞こえる方角や音の高低によって、天気が予知できるといわれている。南東から聞こえるときは雨、極端に東なら台風、西南なら天気が回復して晴れると伝えられている。
ただ最近、方角があやふやで、浮かれているように聞こえる。正確に天気が予知できなくて困ったもんさ。
原因は、波小僧にギリシャ出身のガールフレンドができたからなんだ。
彼女は「セイレーン」という人魚で、航海する者を美しい歌声で惹きつけ、難破させるという海の魔物だ。
十分に気を付けろ!
その他
公開:21/07/24 07:03
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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