前駆体、走る

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俺から俺自身が駆けて行った。俺の前駆体らしい。

俺は友人Pの被験者となった。Pは奇妙な発明家だ。言われるままに「椅子」に座ると電磁場に身体が納まるのを感じた。
「では始めよう」Pが言った。
Pは俺自身を増幅するという。俺の知識、感情、記憶を掘り起こして明確にデータ化する。俺の中の曖昧な俺の過去を増幅して形を与える。そうすると俺の中で昨日の俺、一昨日の俺、一週間前の俺が次々に生まれる。未来も同じ。俺が考える将来を取り出して、明日の俺、明後日の俺という未来の俺をつくる。俺自身をコントロールして過去の俺、未来の俺になり切ることができる。一種のタイムマシン。俺の意識は限りなく広がる。
しかし、俺を追い越そうとした俺がいた。そいつが足並みを乱した。Pの説明では、身体から出て行った。
俺がリアルに一人増えた。Pは問題はないという。誰でも複数の自分を飼っている。一人がどこかに出て行っただけだからと。
その他
公開:21/07/21 09:10

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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