白浜の悪夢と仕立て屋

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ラジオから流れる退屈なボサノバが蝉の声に遮られたのは、店のドアが外から開けられたためだ。水滴を砂がそうする様に、効き始めの冷房を外気の熱が無遠慮に飲み込む。

それは妙な客だった。

スーツを直して欲しいという男からは磯の香りがした。近くに海はないはずだが、妙なのはそれだけじゃない。

懐中に卵型のターコイズが入っていて、重みでできたほつれから砂が溢れてくる。縫っても縫っても止まらない。

「店を砂漠にするつもりか?仕立て屋には下手に出ておけ」

振り返ると青い海と白い砂浜が広がっていた。遠くで汽笛が聞こえる。

「動かないで。そこ、亡者達が手招きしてます」

足に絡む白骨の亡者の手。

それを阻むように青い卵が光を放つ。



蝉の声で目を覚ます。悪夢など見るのは疲れているのか、少し休みを取った方がいいかもしれない。

あずかったスーツをハンガーに掛ける。砂が溢れて少し磯の香りがした。
ファンタジー
公開:21/07/21 08:57
更新:21/07/21 10:16
仕立て屋 夏休みシリーズ③ リレーssに憧れて 蛇足的だけど笑

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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