あの子と夜の軽トラ

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地元の居酒屋は、懐かしい顔ぶれで賑わっていた。

大学進学を機に上京したものの、就職が決まらず、不透明な先行きへの現実逃避が背中を押したのだろう。

夏休みを利用して地元の同窓会へ参加していた。

懐かしさと時の流れを混ぜたような感覚。
酒はすすみ、話題は尽きず、同窓会は大いに盛り上がった。

「通り道だし乗ってく?」
予想外のお誘いに甘えることにした。密かに想いを寄せていた運転席のみきちゃんの横顔は高校時代より大人びて見えた。

運転免許はおろか、特筆して履歴書にかける資格もない僕は、何者でもなければ、何かになる予定もない。そんな空虚さを埋めるために愚かな戯言が滑り出る。

「僕、前からみきちゃんのことが…」

言い終わる前に彼女の言葉が僕の言葉を切り裂いた。

「私、来月結婚するの」

運転席の彼女はやはりすごく大人びていて
その時、僕は何にもなれない子供のままだった。
青春
公開:21/07/19 19:13
更新:21/07/19 20:53
夏休みシリーズ②

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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