咲氷室

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蝉の中でも一際暑いのはクマゼミだと思う。
シャンシャンとした熱波を浴びながらもう背中は汗ばんだ。
赤ひげ文字の「氷」を見つけた時は年甲斐もなく心が弾んだ。
昭和家屋の車庫を改装した佇まいの暖簾を潜る。
いらっしゃいと年配女性は前掛けで手を拭く。
「へー知らなかった。咲氷屋っていうんですか?」
「さきひむろ。ね」よく見ると氷屋でなく氷室だった。
照れ笑いしメニューを探す。
「味は一種類なの、大きさだけ決めて」
「へぇ。じゃ小で。何味なんですか?」
「お客さん次第よ」と意味深に答えて氷を削り始めた。
小銭を握りしめていると懐かしい気持ちになる。
「咲き氷の小ね」
シロップは?という表情を「いいから」と店主は掻き消した。
一口頬張る。氷はスッと消え不思議な味が心に沁みた。


店を出ると暑さが心地良い。歩きながら店主の言葉を思い出した。
「感じた味が貴方の夢の味。スッと溶けたのは迷う気持ちね」
ファンタジー
公開:21/07/19 11:20

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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